
静脈麻酔や静脈内鎮静法という言葉を聞いたことがありませんか。歯科で行う静脈内鎮静法とはどのような処置なのか、麻酔が適している方やメリットデメリットなどを含めて詳しくご紹介いたします。
静脈内鎮静法とは
歯医者のキーンという音を聞くだけで手に汗握るような方にとって、歯科治療は嫌で仕方のないものです。ですが、静脈内鎮静法という麻酔方法を取り入れていれば、歯科治療が苦手な方、歯科恐怖症の方にとって治療は少し楽になるのではないでしょうか。歯科で静脈内鎮静法をする理由として、治療する口腔内と気道が近く、どうしても唾液などの誤嚥のリスクがあります。歯科医師の指示に反応して、むせたり、せき込む反射ができるというのは、誤嚥や気道閉塞などを避けるためにはとても大切です。
静脈内鎮静法の基本
静脈内鎮静法とは、鎮静薬を静脈に直接注射して、意識がうっすらあるリラックス状態を作る方法です。眠ってしまうほど深い麻酔ではないものの、感覚はぼんやりとしています。時間の経過が曖昧になるため、治療が気づいたら終わっていたという声も多いです。この方法はセデーション(Sedation)とも呼ばれ、医科では内視鏡検査などでも使われています。
全身麻酔との違い
よく混同されるのが全身麻酔との違いでしょう。
- 全身麻酔は意識がなく眠っている状態で、自発呼吸ができないため人工呼吸器が必要となり、回復まで少し時間がかかる
- 静脈内鎮静法は意識が半覚醒の状態で、自発呼吸ができ、回復までの時間が比較的早く、治療中の声かけに応えられる
この点が大きく異なります。
なぜ静脈から?
静脈から点滴により麻酔薬を投与すると即効性及び確実性が高く、副作用もコントロールしやすいというメリットがあります。鎮静薬の種類にはミダゾラム、プロポフォール、デクスメデトミジンがあり、患者さんの年齢や体調によって調整されます。薬について簡単にご説明しましょう。
ミダゾラム
- ベンゾジアゼピン系の催眠鎮静剤で、歯科・口腔外科領域における手術及び処置時の鎮静に使用可能である
- 半減期が長いことから鎮静効果も長いが、多く投与しても一定量の効果となり、健忘効果が見込める
プロポフォール
- 非ベンゾジアゼピン系薬剤であり、ミダゾラムと比べて代謝が速く、投与時に低血圧が起こりやすい鎮静剤である
- 半減期が短いため多く投与しても覚醒が速く、麻酔後の副作用になりやすい嘔吐は起きにくい
デクスメデトミジン
- 非ベンゾジアゼピン系薬剤であり、麻酔薬の中でも呼吸抑制が起こりにくい鎮静剤である
- 半減期は比較的短く、ただ効果が出るためには少し時間を要する
どんな人が静脈内鎮静法に適しているか
歯科治療で静脈に薬を入れるというのは大げさと思われるかもしれませんが、安心して治療を受けるため幅広い年齢の方が受けられます。特にこのようなタイプの方には、静脈内鎮静法が非常に効果的です。
歯科恐怖症の方
過去に歯科治療で強い痛みや不快感や、歯医者特有の薬剤のにおいや音に強い不安を感じた方、治療中パニックになってしまうことがある方に向いています。これらに当てはまる方は、恐怖心そのものを鎮める静脈内鎮静法で、落ち着いて治療が受けられます。
長時間の治療が必要な方
インプラントや抜歯など1回の治療にかかる時間が長い処置では、体や心の緊張が続くことで疲労感が強くなります。静脈内鎮静法を使えば、まるでうたた寝していたかのような感覚で治療が終了するため、患者さんの負担が大幅に軽減されます。
嘔吐反射が強い人
器具がのどの奥に入るとオエッとなってしまう方や、歯型の採取などで器具を歯に装着しただけで嘔吐反射が出てしまう方にも効果的です。鎮静によって筋肉や神経の反応が緩やかになるため、不快な反射が起きにくくなるというメリットがあります。
高齢者及び全身疾患のある方
服薬状況やかかりつけ医の許可を得ることが大前提ですが、かかりつけ医の許可が下りれば、高齢者の方や全身疾患(心疾患や糖尿病など)の患者さんにおいても、管理下で安全に使用できます。当院では麻酔専門医の管理のもとで行います。モニターで全身を管理して行います。
治療中と治療後の流れ
静脈内鎮静法とは実際どんな感じなのか、気になるところでしょう。ここでは施術当日の流れを追いながら、イメージをつかんでいただければと思います。
治療前の準備
治療前には、必ず患者さんのお体の状態確認が必要です。問診とこの治療法に対する説明がとにかく丁寧に行われなければなりません。
- 全身状態の確認(既往歴・服薬など)
- 血圧や心拍数などのバイタルチェック
- 鎮静法の内容や流れ、リスクの説明
医院によって設備は異なりますので、痛みをなるべく感じさせない治療を行っている歯医者を選んでください。いきなり治療を開始して点滴を行うということはありません。治療前に疑問点や不安点があればじっくり相談しておけば、怖い気持ちもここで半減できるのではと思います。
治療中の流れ
説明に納得が出来れば、治療を行います。腕に点滴を入れ鎮静薬がゆっくりと投与されます。鎮静薬の配合にもよりますが、点滴スタートとともに、うとうとして、「あれ? もう始まってる?」「気づいたら終わってた!」という感想が多いです。全身麻酔と違い、意識が完全に消えるわけではありませんが、不思議と時間や感覚が飛んでしまう感じとなり、治療音や振動なども気になりません。
治療後
治療が終わったら、リカバリールームなどで30分〜1時間ほど休憩して安静にしてもらいます。理由としては、麻酔薬が抜けるまでに少し時間がかかるため、フラつきがないか確認をするため、簡単な会話ができるかチェックを行います。そのため、当日は自分で車やバイク、自転車を運転して帰ることは禁止ですので、家族や友人に送迎を頼んでおきましょう。
日常生活への復帰は比較的スムーズ
副作用が出なければその日のうちに帰宅して休めます。眠気が続く場合もありますが、1日たてばほぼ通常通りの生活が可能です。
副作用やリスクは?知っておきたい注意点
うとうとしてる間に治療が終わるって理想と思えますが、どのような医療にもリスクゼロというのはありません。静脈内鎮静法にも、事前に知っておくべき注意点があります。
最も多い副作用は眠気、ふらつき
薬が体に残る時間には個人差があり、このような軽微な副作用が起きることがあります。
- 眠気
- ふらつき
- 頭がぼーっとする
- 舌が回らず会話しにくい
治療当日は絶対安静にし、その後の予定は入れないでおきましょう。治療後に仕事に戻ったり、ジムで筋トレなどは絶対にしてはいけません。
ごく稀に起きるアレルギーや呼吸抑制
重篤な副作用としてはこのようなリスクが挙げられます。
薬剤によるアレルギー反応
かゆみ、じんましんがある
呼吸抑制
呼吸が浅くなったり、遅くなることがある
低血圧
頭痛が起きたり、ふらつきやめまいが頻回にある
きちんとした医療環境と管理体制が整っていれば、すぐに対処可能です。だからこそ、静脈内鎮静法は歯科医院選びが大事と言えます。
避けた方がいい人もいる
静脈麻酔は全身に作用する薬を使うため、事前の問診や診察が命綱です。このような方は、施術前に必ず歯科医師やかかりつけの医師へ相談しましょう。
- 持病(心疾患・糖尿病・高血圧など)がある
- 薬剤のアレルギーがある
- 妊娠中または授乳中である
- 極端な低体重や高齢で全身状態に不安がある
治療後のNG行動まとめ
治療後についやりがちだけど避けるべきことを挙げます。
- 飲酒、喫煙
- 自動車や自転車の運転
- 激しい運動
- 子どもの世話や重い家事
- 仕事
治療後は特に注意散漫になりやすいため、運転、家事、仕事はやめておきましょう。激しい運動、重い家事、飲酒は、治療部分の血流を良くしてしまい、出血しやすくなります。反対に喫煙は血流が悪くなりすぎて、細菌感染を起こしがちになるため、いずれもやめておくのが賢明です。
まとめ
静脈内鎮静法の安全性は高いとはいえ、麻酔という治療に不安を感じてしっかり知ろうとすることは大事です。副作用は基本的に軽度ですが、ゼロではありません。医療設備とスタッフなどがしっかりした医院で行うことが重要であり、自分の体調を正直に申告することが、安全に治療を行うことへの第一歩です。