矯正歯科

矯正したいけど上と下どっちが痛い?

矯正したいけど上と下どっちが痛いのだろうと尻込みされる方もおられるでしょう。矯正でなぜ痛みが出るのか、上と下はどっちが痛いのか、痛みが辛い時にはどうしたらいいのかについて詳しくご紹介します。

矯正でなぜ痛みが出るの?

矯正治療で気になるのは費用、治療期間ももちろんあると思います。それ以外には、ちゃんと歯が綺麗になるのかという不安や、痛みがあることでしょう。なぜ矯正治療で痛みが出るのかご説明します。

歯が動くときの圧力と炎症

ワイヤーブラケットやマウスピースなどの矯正装置で歯に矯正力をかけると、歯の周りにある歯根膜という組織に圧力がかかります。歯根膜は、歯と骨(歯槽骨)をつないでいるクッションであり、衝撃を和らげるような役割をしていて、神経や血管が圧迫されて、軽い炎症反応が起き、これが痛みとして感じられます。

骨のリモデリング

骨は常に新陳代謝を行っていて、古い骨を新しい骨に変えている状態を骨のリモデリングと呼びます。歯列矯正の際には、破骨細胞と骨芽細胞が働きます。矯正力で圧力を感じた側は破骨細胞が骨を溶かして壊します。反対側の隙間には骨芽細胞が骨を作るため変化し、歯の穴の位置が動き、歯の根の周りの骨が吸収と再生を繰り返して新しい位置に移動して歯並びが変わります。

口内炎

矯正器具を装着したことで口腔内の頬や唇などの粘膜に接触して口内炎が出来たという痛みです。ただし、矯正を始めた頃に起きやすい痛みで、時間が経つとそこまで感じず慣れてきます。

痛みの特徴

装置調整後の数時間〜2、3日間が最も強く痛みが感じられます。固いものを噛んだ時に違和感を覚えることがありますが、個人差はありますが慣れると徐々に軽減していきます。

  • ワイヤー矯正は調整後に一気に矯正力がかかるため、痛みが強めに出やすい
  • マウスピース矯正は弱い矯正力を少しずつかけるため、痛みがワイヤーと比較して軽い

上と下でどっちが痛い?

上の歯と下の歯で痛みの感じ方に違いがあるのかどうかについてご説明します。まず、上顎の骨(上顎骨)と下顎の骨(下顎骨)の違いですが、上顎骨が顔面頭蓋という頭蓋骨の一部であるのに対し、下顎骨は顎関節を介して繋がる可動性の骨です。一般的には下顎の骨の方が痛みを感じやすいと言えます。

下顎骨は硬い

皮質骨は骨の強度を保ちますが下顎骨のほうが厚いと言われます。下顎骨が他の骨と接しておらず歯から伝わる力を単独で受け止める必要があり、その力を皮質骨まで伝えるために下顎骨には太い骨梁が存在します。骨梁というのは、家の梁のような存在で、負荷を分散させる役割がある海綿骨を支える柱の部分です。下顎骨は密度が高く硬いことから、歯を動かすにはより大きな圧力が必要となり、その分歯根膜にかかる負担が増え、痛みを感じやすくなります。

下顎の歯は、かみ合わせの力を直接受けやすい位置にあり、食事や噛む動作で刺激されやすく、痛みを強く感じる原因となります。

上顎骨は下顎骨より動きやすい

多くの骨で構成される頭蓋の一部である上顎骨ですが、歯から伝わる力を頭蓋全体で受け止める点が下顎骨と異なります。そのため太い骨梁や厚い皮質骨はあまり必要なく、比較的骨が動きやすい反面、動くスピードが早いことで一時的に痛みが出やすいことはあります。また、個人差や症例によってそのように感じることもないとは言えません。

痛みの感じ方は個人差がある

痛みの強さを左右するのは、歯の移動量、骨の硬さ、矯正治療法、痛覚の4点です。

歯の移動量

動かす距離が長ければ、歯の移動量も増えます。大きく動かすということは矯正力をしっかりと加えなければならないため、痛みの症状が出やすいです。

骨の硬さ

骨が柔らかければ歯はスムーズに動くことができます。しかし、下顎骨は先述したように硬くて力が必要となり、痛みが出てしまいます。

矯正方法

マウスピースによる矯正よりもワイヤーは一気に矯正力がかかるためどうしても痛みが出やすいです。

痛覚

より弱い刺激でも痛みに感じてしまう敏感な方であれば矯正治療で痛みを覚えやすいです。何度も申し上げる通り、痛みの感じ方には大きな個人差があります。

どの矯正が一番痛い?

どの矯正方法でも 歯が動くときに痛みが出るという原理は共通しています。痛みの強さや感じ方はこの4点でで変わります。

  • 歯にかける力の強さと持続時間
  • 調整頻度
  • 個人の痛覚の敏感さ
  • 骨の硬さや歯の状態

矯正方法別の痛みの比較

矯正方法別に痛みの比較を行いましょう。

なぜワイヤー矯正は痛い?

歯の動きを見てワイヤーは調整時に新たなワイヤへ―交換します。ブラケットの中を通るワイヤーを付け替えると一度に全体へ力を加えるため、締め直した直後は特に歯根膜が圧迫されます。調整直後の2~3日がピークですが、その後は徐々に慣れていきます。

痛みの感じ方には個人差が大きい

同じ治療法を受けていてもほとんど痛みを感じない人もいれば、とても痛くて耐えられないと感じる人もいます。痛みへの耐性や骨の硬さ、炎症反応の強さなどが関わるため、一概に痛い痛くないとは言えません。

痛みが辛い時の対処法は?

では、痛みが辛い時に患者さん自身で行える対処法についてご案内します。

1. 柔らかい食事に切り替える

お肉、硬いパン、ナッツなどを食べるのは避け、リゾット、グラタン、うどん、おかゆ、スープ、ヨーグルトなどやわらかい食べ物を食べましょう。歯に負担の少ない食事をおすすめします。

2. 冷やす

頬の外側から、保冷剤や冷たいタオルを当てて外から痛みで熱い部分を冷却しましょう。炎症や腫れによる痛みを和らげる効果がありますが、直接氷を口に含んだり当てるのは避けてください。知覚過敏のような痛みが出る可能性があるため、タオルで包みましょう。

3. 市販の鎮痛薬を服用する

ロキソニン、イブ、カロナールなどの用法・用量を守り、正しく服用しましょう。何度も服用したことのある鎮痛剤を服用し、できれば歯科医師や薬剤師に相談してからの方がより安心です。無理に我慢する必要はありません。

4. 口腔内を清潔に保つ

痛いからと歯磨きを怠ると、炎症や口内トラブルが悪化しやすい状態になるため、優しくブラッシングし、うがいも活用しましょう。口内炎による痛みをがある場合は、口内炎用の塗り薬を塗ったり、専用のパッチを貼るのが効果的です。矯正専用ワックスをクリニックよりもらっていれば当たる器具の部分にワックスを塗ってください。お口の中を触る際は、手を清潔に洗ったうえで行い、塗り薬は綿棒などで塗る方が良いでしょう。

5. 強く噛まない

無意識に食いしばるクセがある人は意識的にリラックスしましょう。噛み合わせに負担をかけないよう注意してください。

6. 睡眠をしっかりとる

睡眠不足は痛みを強く感じやすくなります。十分な休養を取り、痛みの回復を助けましょう。

7. 必要なら矯正歯科に相談する

痛みが強すぎる、長引く、腫れがひどければすぐに相談してください。患者さんの痛みは、本人しか分かりません。次回診察時にどのような痛みがあったかを担当医に伝えてください。ワイヤーの調整や、痛み止めの提案をしてくれる場合があります。

まとめ


矯正は上顎よりも下顎の骨が硬く、噛む力の影響も受けやすいため、痛みを感じやすい傾向にあります。最も痛みが強いのはワイヤー矯正とされ、マウスピース矯正は比較的痛みが少なく、段階的に動かすので負担が軽いと言われます。ただし、痛みの強さは個人差が大きく、一概には言えません。痛みは歯が動いている証拠なので、正しい対処をしながら治療を進めることが大切です。

この記事の監修者

医療法人真摯会
西宮クローバー歯科・矯正歯科 院長
廣石 勝也
朝日大学歯学部卒業。大阪歯科大学総合診療科臨床研修終了。国際口腔インプラント学会会員。

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