歯を失ってインプラント治療を受けたいけれど、インプラントには外科手術が必要なので、高齢の方は少し躊躇されるかもしれません。高齢者の方がインプラントを受ける場合の条件や注意点についてご説明します。
目次
高齢者でもインプラント治療は出来る?
高齢の方でもインプラント治療は可能です。しかしその適用には年齢とともに全身の健康状態や口内環境が大きく関わります。
インプラントとは、失われた歯に代わる人工歯根を埋め込む治療法で、20歳以上の人ならば基本的には治療を受けられます。しかし、個々の健康状態によって治療が適さない場合もあるため、注意が必要です。
高齢者がインプラント手術を受けるための条件
高齢の方がインプラント手術を受けるにあたっては、いくつかの条件があります。
- 持病がないこと、
- 口内の状態が良好であること、
- 特定の薬を服用していないこと、
- 十分な体力があること
1. 持病がないこと、
全身疾患がある方の場合、その症状によってはインプラント治療が適応出来ない場合があります。
インプラント治療に当たって注意が必要なのは、糖尿病、高血圧、心臓病、がん、血友病、骨粗しょう症等の病気です。
重度の糖尿病
重度の糖尿病の方は、免疫力が落ちているためにインプラントが骨と結合しにくい可能性があります。手術の痕が治るのに時間がかかり、傷の治癒が遅れる可能性があるため、インプラント手術後の回復期間が長引くことがあります。血糖値のコントロールが重要となり、適切な管理が必要です。感染症にも弱いという問題もあります。
高血圧、心筋梗塞、脳梗塞などの循環器系の疾患
高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などの循環器系の疾患を患っている方は、インプラントの治療を行うことが難しい場合があります。外科手術に伴って血圧の上昇などの健康状態の悪化を招く恐れがあるため、まず主治医と良く相談しましょう。
がんの放射線治療後、または治療中
悪性腫瘍(がん)の治療で放射線治療を行っている方には、インプラント治療を行うことができません。
血液系の疾患
外科手術の際にはある程度の出血が見込まれますので、出血しやすい方、血液を止まりにくくする抗凝固剤を服用している方などは、インプラント手術を行うことが出来ません、
骨粗しょう症
骨粗しょう症の治療薬として、ビスホスホネート製剤を用いている場合はインプラント手術を受けられません。ビスホスホネート製剤は骨を強くする作用がありますが、顎骨が細菌に感染してしまうと骨が溶ける副作用があるとされます。
2. 口内の状態が良好であること、
インプラントは歯周病に弱いため、歯周病が進行した状態の方はインプラント治療を受けることが出来ません。まず歯周病治療を行い、歯茎の状態が改善すればインプラントが可能になる場合があります。
3. 特定の薬を服用していないこと、
高齢者の多くは複数の薬を服用していることがあります。特に、骨粗しょう症の治療薬や血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を使用している場合、インプラント治療に影響を与えることがあります。
潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、シェ―グレン症候群などの自己免疫疾患のある方でステロイド剤を長期間服用している方は、手術などのストレスによって副腎クリ―ゼと呼ばれる重篤なショック症状を起こすことがあるといわれます。
- 抗凝固薬を服用している場合・・血液の凝固を抑える薬は、手術中および手術後の出血リスクを高めるため、歯科医と主治医の連携が必要です。治療前に薬の調整が行われることが一般的です。
4. 十分な体力があること
インプラントの埋入本数が多い場合は、手術時間が長くなります。また、手術前、手術当日、手術後に何度か通院の必要がありますので、体力的な問題のある方は、インプラント手術が出来ません。
持病ある方でも、主治医と十分な相談した上で、インプラント治療が可能になる場合もあります。
高齢者のインプラント治療の注意点
1. 骨造成の処置が出来るクリニックであること
高齢の方はインプラント治療に必要な顎の骨の量や質が不足している場合があります。その場合、骨造成といって顎骨を造る処置が必要になりますので、その処置が行えるクリニックでインプラント治療を受けることが重要です。
2. 院内がバリアフリーか。訪問診療を行っているか。
高齢の方は筋力や体力の低下によって歯科への通院が難しくなる場合があります。そんな時に、院内がバリアフリーで段差のない設計になっていると、体力を使うことなく診療チェアまで行くことが出来ます。
訪問診療を行っているクリニックであれば更に安心です。
インプラント治療における年齢制限
インプラント治療は18歳以上の方であれば受けることが出来ます。18歳未満ではインプラント治療を受けられない理由は、顎骨がまだ発達途中であるからです。骨が成長している途中でインプラントを埋め込むと、顎や歯の発達に影響が出て、大人になってから噛み合わせが乱れてしまうリスクがあります。
インプラント治療が可能な年齢の上限に関しては、特に決められてはいません。しかしインプラント治療には外科手術が必要ですので、高齢の方で免疫力や体力が低下している場合は、慎重に検討してからインプラント治療を行うか否かの決定を行う必要があるでしょう。
高齢者に適したインプラント・オーバーデンチャー
高齢者向けのインプラント治療の一つに「インプラント・オーバーデンチャー」というものがあります。これは天然歯やインプラントに小型の磁石を取り付けて、磁石の力で入れ歯を安定させるというものです。
入れ歯が安定するため噛む力が向上する点がメリットです。デメリットとしては、一般的なインプラントと比べると噛む力が弱いということです。
形状の大きな特徴としては、上顎の総入れ歯の場合は、入れ歯を安定させるために床と呼ばれるプラスチックの部分で大きく口蓋を覆い、違和感や吐き気を起こす原因になります。オーバーデンチャーの場合は磁石で固定させるため、大きな床が必要ありません。そのため、違和感はかなり改善されています。
インプラントの新来患者さんは60歳代
日本口腔インプラント学会の調査によると、新来患者さんの年齢のピークは1996年度の40~50歳代から2011年度の60歳代へと徐々に変化し、2016年度は2011年度と同じ60歳代であったとのことです。
また、厚生労働省が2016年に実施した「歯科疾患実態調査」によると、インプラント装着者の全体割合は約2.7%で、年齢別の内訳としては40代で約1.75%、50代で約2.1%、60代で約3.45%、70代で3.55%、80代で2.7%となっています。
高齢者がインプラントを行う際の注意点に関するQ&A
高齢者がインプラント手術を行う際の主な条件には、持病がないこと、口内状態が良好であること、特定の薬を服用していないこと、十分な体力があることが含まれます。重度の糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞などの循環器系の疾患、がんの放射線治療中、血液系の疾患、骨粗しょう症などは注意が必要です。
高齢者のインプラント治療で考慮すべき注意点には、骨造成の処置が可能なクリニックで治療を受けること、院内がバリアフリーであること、必要に応じて訪問診療が可能であることが挙げられます。これにより、安全かつ快適に治療を受けることが可能になります。
インプラント治療は18歳以上の方に対して行われます。18歳未満ではインプラント治療は行われません、これは顎骨が発達途中であるため、インプラントの埋め込みが顎や歯の発達に悪影響を及ぼすリスクがあるからです。上限に関しては特に決められていませんが、全身状態や健康状態を考慮する必要があります。
まとめ
高齢者がインプラント治療を行う際には、全身状態や口内環境、使用している薬剤などに細心の注意を払う必要があります。特に、骨造成が可能なクリニック選びや、体力の低下を考慮した通院計画が重要です。個々の健康状態に合わせた適切なアプローチを選択することで、快適な口腔機能を取り戻すことが可能になります。
▼インプラントについてはこちらで詳しく解説しています
高齢者がインプラントを行う際の注意点については、以下の研究からいくつかの重要なポイントが指摘されています。
1. インプラントの成功率とリスク要因
高齢者におけるインプラントの成功率は比較的高いですが、全身性の健康問題や特定のリスク要因がインプラントの成功に影響を与える可能性があります。例えば、喫煙や重度の歯周病はインプラントの成功確率を低下させることが示されています。また、骨移植が必要な場合、インプラントの寿命に影響を与える可能性があります。【Compton et al., 2017】
2. 全身疾患と老化の影響
高齢者におけるインプラント治療では、全身疾患や老化による口腔の変化が重要な要因です。適切なインプラントシステムの選択、侵襲の少ない手術、そして患者さんの寿命を考慮した治療計画が推奨されます。また、高齢者の場合、口腔衛生の維持が難しくなるため、取り外し可能な上部構造に変更することも検討されています。【Sato et al., 2020】
これらの研究結果から、高齢者におけるインプラント治療は、全身疾患や口腔の健康状態を考慮した個別の治療計画が必要です。また、適切なインプラントシステムの選択、侵襲の少ない手術技術、そして維持管理の容易さも重要な要素となります。